ブッダとそのダンマ

B・R・アンベードカル著『ブッダとそのダンマ』を読み終えた。以前から原始仏教には関心があり、中村元の『原始仏典』などいくつかの本を読んだが、本書は山際素男の名訳とあいまって、非常に分かりやすい原始仏教の入門書となっている。普通なら術語を使って記述するところを平易な言葉で書いてあることも大きな要因だ。たとえば、「八正道」は「八つの正しい道」となっている。

アンベードカルの描くブッダの言動で首尾一貫していることは、神、死後の世界、霊魂、輪廻、世界の始まりと終わりなど、不可知な事柄や神秘主義的な事象については一切思索や議論の対象としないという態度である。それらが人間の幸せにとって、害をなすことがあっても益をなすことがないと考えるからだ。

周知の通り、大乗仏教は釈尊の死後数百年経って成立し、ヒンズー教の神々や死後の世界を取り込んでいる。釈尊の説いた原始仏教やその流れを汲む上座部仏教とは性質の異なる宗教である。日本の仏教は釈尊の死後千年以上経って輸入された大乗仏教を基礎としている。したがって、私たちの身近にある仏教は原始仏教の思想から遠く離れたものといえよう。

著者のアンベードカルは、20世紀インドの政治家で、不可触民解放の指導者、インド憲法の起草者であった。ヒンズー教の内部で不可触民解放を闘うことに限界を感じ、自ら仏教に改宗してインド仏教再興の指導者となった。その彼が1956年に没する直前に書き上げたのが本書である。10世紀過ぎのイスラム教侵攻によりインドでは仏教が壊滅させられていた。このため当時インドの仏教徒は20万人しかいなかったが、現在では1億人を超える人々が仏教徒になっているという。

アンベードカルのいうとおり、真に人間性に基づき、人間を解放する宗教は、仏教以外にはないと思う。

『ブッダとそのダンマ』(光文社新書)

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