カレル・ヴァン・ウォルフレン『日本を追い込む5つの罠』

日本を追い込む5つの罠カレル・ヴァン・ウォルフレンの『日本を追い込む5つの罠』(角川書店)読了。現在の日本と世界の状況を理解するための良書。

 過去には国民皆が豊かで、民主主義のモデルとして世界の憧れの的だったアメリカが、現在は富の40%を人口の1%が独占し、労働者の平均所得は貧困レベルをわずかに上回るに過ぎないという実態。
 信用格付け会社による恣意的な格付けを元に、EU各国政府の返済能力以上の国債を大量に引き受けたヨーロッパの巨大銀行。銀行のビジネス上の失敗が、ギリシャ、スペイン、イタリアなどの政府ひいては国民に押しつけられているという現実。そして、銀行は責任を逃れるだけではなく、貧しい諸国民を犠牲にして救済されているのだ。
 これらは、レーガン、サッチャー以降に欧米の経済イデオロギーが新自由主義に塗り替えられてしまった結果として引き起こされたことだ、という。
 アメリカの軍産複合体は冷戦が終わった後も「敵」を作り続ける必要があり、彼らの利権のために絶えず不必要な戦争が引き起こされている。

 これら、アメリカとヨーロッパに比べると、日本の状況はずっとましだ、と著者は言う。日本の国債はそのほとんどを国内の民間部門が引き受けていることは、その一つの要因だ。また、アメリカの経済と政治を牛耳っているのはヘッジファンドだが、日本の経済をリードしているのは製造業だということも挙げられている。

日本がアメリカとヨーロッパがはまった罠に陥らず、社会を再生していくことを著者が強く希望していることに強い感銘を受けた。

【目次】
・序 アメリカ、EUの危機と日本の”罠”
・第1章 TPPの背後に潜む「権力」の素顔
・第2章 EUを殺した「財政緊縮」という伝染病
・第3章 脱原子力に抵抗する「非公式権力」
・第4章 「国家」なき対米従属に苦しむ沖縄
・第5章 権力への「無関心」という怠慢

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