土佐源氏の原作
先日、本屋で平凡社ライブラリーの『日本残酷物語 I 貧しき人々のむれ』という本を見つけた。パラパラとめくっていたら、坂本長利の一人芝居「土佐源氏」の原作に当たる宮本常一(みやもとつねいち)の「土佐檮原(ゆすはら)の乞食」という文章が掲載されていたので買ってしまった。一人芝居を見たのはもう20年ほど前のことになるのだが、今でも強烈な印象が残っており、また味わいたいと思っていたのだ。
「土佐檮原の乞食」とは、民俗学者である宮本常一が戦時中、高知県の檮原の橋の下に暮らしていた老乞食へのインタビューをまとめたものだ。この老人は若い頃から博労(ばくろう)をしながら、女性遍歴を重ねた。終いには遊びがたたって盲目になってしまう。その中でも彼がとくに好きだった二人の女性の思い出が語られる。村のコミュニティに入ることのできなかった彼が関係を持つのは常に後家か人妻であり、この二人の女性も身分の高い人妻であった。