これは、雑誌『世界』9月号に掲載された一つの記事のタイトルです。正確には、「欧米メディアの目に映った被爆地-『縮小する』広島、忘れ去られる戦争」とついています。
著者は広島市在住のフリーの翻訳家・ライター繁沢敦子さん。長年の友人でもあります。読売新聞記者、広島市立大学広島平和研究所勤務後、独立して仕事をされています。
この記事は、被爆60年前後数年間に広島を訪れた海外ジャーナリスト・映像作家との交流を通して、 ヒロシマの意味を改めて考察するものです。小見出しは次のようについています
- 「9・11」が逆照射する被爆地
- 被爆者の沈黙の意味
- 二重被爆者の衝撃
- 『マッシュルーム・クラブ』の拡がり
- 『はだしのゲン』と出会う
- 二つの被爆地をつなぐ
- 戦争は「初期化」できるか
記事中で紹介されている人々は次の通り。
- パトリック・コックス…米国のラジオ番組『The World』記者
- リチャード・ロイド・パリー…英国の高級紙『ザ・タイムズ』東京支局長
- スティーブン・オカザキ…米国日系三世のドキュメンタリー作家
記事の一部を手短に紹介します。
米英のメディアでは、「原爆投下が太平洋戦争終結を早め、米軍兵士の命を救った」という論調が一般的であり、著者はこのことに忸怩たる思いを抱いています。しかし、ある英国の新聞記者は、広島と長崎の被爆者30人ほどを取材する中で、当初被爆者に対して必ず日本の加害について尋ねていたのが、中盤からそれがなくなったといいます。著者はこのことを「記者が被爆者の話を聞くうちに、彼らを一つの戦争の被害者ではなく、人類に対する犯罪の被害者だと考えるようになったと信じている」と述べています。
著者は、米国でも着実に変化が起きつつあるのではないか、といいます。「日系三世のドキュメンタリー作家、スティーブン・オカザキ監督の『マッシュルーム・クラブ』 が今年1月、第78回米アカデミー賞の短編ドキュメンタリー部門にノミネートされた」のです。「残念ながら受賞自体は逃したが、米タイムワーナー系列のケーブルテレビ局HBOが上映権を買い上げ、これまで約70都市の劇場で上映されたほか、今年の8月3日には全米で放送された」とのこと。現在、オカザキ監督は、二つの被爆地に関する包括的ドキュメンタリー『ヒロシマ・ナガサキ』(仮題)を制作中だそうです。
最後に、日本に住む私たちへの問題提起があります。「戦後60年経って、ようやくヒロシマ、ナガサキに注がれ始めた欧米の関心。しかし、それに応えるにはあまりにも私たちは準備できていない…中略…オカザキ監督の新しい作品が完成し、世界中で放送されたとき、国際社会に最も問われるのは、私たち日本人の態度であるかもしれない」
ヒロシマを伝える海外メディアをサポートしてきた繁沢さんの尽力に敬意を表すると同時に、このような素晴らしい若手文筆家が広島にいることを嬉しく、また誇らしく思います。