高校の頃は、一応文学青年だった。現代詩の真似事もしていた。その頃、エドガー・アラン・ポオの詩を読んだ。「大鴉」というタイトルで、ポオの代表作らしい。当時、The Alan Parsons Project というプログレッシブ・ロックバンドが「The Raven (大鴉)」という曲を出していたので、そのことにも影響されたかもしれない。詩の中で何度も繰り返される印象的なフレーズは次のものだ。
大鴉はいらえた
「またとない」
小学5年生の終わりにK代さんとぼくはそれぞれ別々の土地に転校した。中学3年生の時に思い出して手紙を書いた。彼女の街の図書館で再会した。輝くばかりに美しかった。黒く澄んだ大きな瞳、はっきりした眉、通った鼻筋、小さな赤い唇。そう、「またとない」ほどの美しさだった。しかし、彼女の両親に阻まれ、ぼくからの電話も手紙もK代さんに届くことはなくなった。彼女からの最後の手紙には、仲違いしていた父、母、祖母という大人家族の中の一人っ子として息が詰まるような思いで育った彼女の軌跡が綴られていた。
高校に入ってからのある日、クラブの友人の中学時代の同級生がK代さんと同じ高校に通っていることが分かった。二人の友人を介しての文通が始まった。しばらくして、K代さんが新体操の試合で自分の高校に来ることが分かった。その日は、路上で10メートルほどの場所まで近づくのが精一杯。遠くから笑顔で会釈を交わした。振り返れば、それがK代さんを見た最後だった。いつの間にか、彼女からの返事は来なくなり、文通は終わった。そして、ぼくの淡い恋も終わったのだった。
「またとない」---なんと深い響きだろう。